『下剋上受験』の中卒主人公をうらやむ高学歴エリート

2017年1月13日22時から、TBSの金曜ドラマ『下剋上受験』第一回が放送された。中卒の両親から生まれた娘が中学受験をするという物語だ。

俳優の阿部サダヲ演じる父親・桜井信一は、学歴に頼らず実力で生きてきた。仕事も立派にこなし、幸せな家庭まで築いている。

ところがある日、中卒ということで職場で不利な扱いを受けてしまう。経験も技術もある自分がなぜ…… 子供には将来こんな悔しい思いをさせたくないと考えた信一。小学生の娘・佳織に中学受験を勧める。

日本では中学校までは義務教育と定められており、小学校を卒業すれば誰でも無試験で中学校に入学できる。ただ、それは公立の中学校の場合だ。

公立中学よりも進学実績の高い私立中学もある。信一と佳織は将来の高校・大学進学も見据え、私立の中学校を目指すのだ。そのためには入学試験に合格しなければならない。父娘の奮闘が始まった――

このドラマの内容に、高学歴エリートが異を唱えている。そう聞くとつい、「中学受験はそんな甘いもんじゃない」といった類の批判を想像してしまうが、全く違った。いわく、「あんな幸せな人が、なぜ中学受験なんかに興味を持つんだろう」ということだ。

社会に出たら、学歴よりもストレス耐性や対人コミュニケーションなどが重要になる。それらの能力は受験勉強をしても身につかないし、受験勉強にかまけることでむしろ、人間として大事な力を養う機会を失ってしまう。

人間として大事な力を養う機会とは、どういったものか。それこそ、中卒の信一の生き様を見ればわかる。信一は、犬の散歩中の人にも、配達中の郵便局員にも気軽に声をかける。彼の周りには人がたくさんいる。仲の良い友達も、愛しあう妻もいる。大勢の多様な人々の中で生活することにより、自然と人間力が培われていったのだ。

人間力が高いと、人は幸せになれる。まさに信一がそうだ。確かに、たまには学歴のせいで理不尽な扱いを受けることがあるかもしれない。しかしそれは、そう扱う側の人間に問題があるだけ。やられた側は落ち込んでしまうものだが、信一には親身になって共感してくれる友や妻がいる。復活して明日からまたがんばれる。信一の幸せは、こんなトラブルなどではみじんもゆらぎはしないはずだ。

中卒の信一が手にしている幸せを、先の高学歴エリートは持っていない。喉から手が出るほど欲しがっているというのに。幸せへのパスポートである人間力を身につける時間を、別のことに使ってしまった。受験勉強の代償はあまりにも大きかった。

既に人間力を備えた人が受験勉強をするなら問題はない。幸せと同時に学歴も得られるというだけだ。人間力の高い信一に育てられた佳織は、ある程度の人間力を身につけている。この父娘はきっとハッピーエンドを迎えることだろう。

画像:「金曜ドラマ『下剋上受験』|TBSテレビ」
http://www.tbs.co.jp/gekokujo_juken/

『嫌われる勇気』の”ナチュラルボーンアドラー”が、はた迷惑すぎる件

フジテレビで毎週木曜22時放送の連続ドラマ『嫌われる勇気』。第一回が2017年1月12日に放送された。アドラー心理学を解説した書籍『嫌われる勇気』(2013年出版。岸見一郎・古賀史健著)のエッセンスをベースに、刑事モノを肉づけしてドラマ化した作品だ。

書籍版『嫌われる勇気』では、青年と哲学者の対話を通してアドラー心理学の真髄を垣間見ることができる。アドラー心理学とは、ラットで実験するような心理学とは異なり、日常生活の中で人間関係の問題を改善し、自分が幸せになれるようにするためのもの。学問というよりは考えかた、生きかたというイメージを持たれることもあるほどだ。

アドラー心理学を具体的に知りたいなら、香里奈(32)演じる女刑事・庵堂蘭子の言動を見るといい。彼女は人からどう思われようとも気にしない。気を使って周りに合わせるとか空気を読むということをせず、自分の言いたいことを言い、したいことをする。その傍若無人さに、加藤シゲアキ(29)演じる同僚刑事・青山年雄はハラハラさせられっぱなしだ。

庵堂のように生きられれば、確かに楽しいかもしれない。しかし、多くの視聴者は彼女のようには生きられていない。常に周囲に気を配り、なるべく嫌われないように、願わくば好かれるように振る舞うことで頭がいっぱいだ。そんなに注意しているにもかかわらず、実際にはあまり好かれなかったり、意外と嫌われてしまったりすることも少なくない。

なぜ庵堂はそこまで完璧にアドラー心理学を実践できているのか。設定では、先天的なものということになっていて、彼女は”ナチュラルボーンアドラー”と呼ばれている。”ナチュラルボーンアドラー”なら、何も我慢することなく、何でも好き放題にできる。そんな幸せな人生は他にはないだろう。しかし、周りの人はどうか。

一生懸命がんばって雰囲気を良くしようとしているのに、一人の”ナチュラルボーンアドラー”のせいで台無し。周囲に迷惑をかける”ナチュラルボーンアドラー”に、親身になって助言してもどこ吹く風。庵堂の言動に耐えかねて、青山は彼女とのコンビ解消を願い出る。それほどまで嫌われているのに、庵堂はもちろん動じない。さすが『嫌われる勇気』である。

庵堂の場合は生まれつきなので、努力したり勇気を出したりしたわけではない。しかし、普通の人間は後天的に身につける必要がある。努力してアドラー心理学を学び、そして嫌われる勇気を出さなければならない。迷惑をかけられる側ではなく、迷惑をかける側……勇気を出してポジションを入れ替えれば、180度異なる幸せな人生が手に入るだろう。

画像:『嫌われる勇気 – フジテレビ』
http://www.fujitv.co.jp/kira-yu/

人気アニメ映画『君の名は。』 高齢者には不評?(※ネタバレ注意)

shooting.star.tumblr_m7sj2qWXzO1qcbrp0o1_500shooting.star.tumblr_m7sj2qWXzO1qcbrp0o1_500 / Dreaming in the deep south

水面に映る夜空。流れ落ちる星はいずこへ。クリエイティブ・コモンズ 表示 2.0 一般

2016年8月26日に劇場公開された東宝のアニメ映画『君の名は。』。

2017年に入ってもまだまだ人気は衰えていませんね~。田舎へ帰省した正月休みに、遅ればせながら筆者も見てきました。最初に感想を言っておくと、面白かったです。男女の入れ替わりという設定だけはファンタジーですが、それ以外のストーリーや人物にはリアリティが感じられました。主人公の男子と女子、お互いに芽生える恋愛感情が唐突すぎて共感できない! というレビューもときどき見かけます。しかし筆者は「こういうのもあり得るかな」と思いました。

想像してみてください、突然だれかと体が入れ替わってしまったとしたら…… 現実では決して知ることのできない、内面も含めたその人の全てを体で感じることになるんです。急速に親密になっていっても決しておかしくはありません。ただ、逆に大嫌いになるケースもあります。相手の嫌な点からも目をそらせないんですからね。

本作においては、男子高校生の瀧(たき)は女子高生の三葉(みつは)の体に入ったとき、胸をもむ以上のことはしませんでした。三葉は瀧になったとき、瀧が憧れていた先輩女性との関係を悪化させることはしませんでした。お互いに相手が嫌がることはせず、ついでに二人ともが美男美女だったこともあり、彼らの場合には運よく、心から思いあう関係になったのです。

こうして強く結びつけられていった二人ですが、その過程がファンタジーだったせいか、自分たちがひかれ合っていることをすぐに忘れてしまいます。最終的には相手の顔どころか名前さえも記憶から失われ、偶然すれ違っても見ず知らずの他人として通りすぎてしまう……と思いきや、ふと振り返ってお互いにかろうじて相手の存在を認識できたような問いかけをする――ここで映画の幕が下ります。

年齢的に中年の筆者からすれば、普通に「あ~面白かった」です。親戚の子供たちも全員面白かったと言っていました。しかし、筆者の親(高齢者)は「ハッピーエンドになっちゃうんだねえ……」と、どこか不満げ。「気づかないまま別れちゃうほうが良かった?」と聞くと、「そのほうが、『このあとどうなるんだろう』って思う」と答えてくれました。

この点については、映画評論家の宮台真司(57歳)もTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』(2016年10月14日放送分)内の「デイキャッチャーズボイス」コーナーでコメントをしています。主人公の二人が再開するラストシーンへの批判でした。通常あり得ない奇跡的な出会いを、やはりあり得ない奇跡として描く……そのほうが現実を正しく描いたことになる、というような内容だったと思います。

パーソナリティーの荒川強啓(70)も、映画の結末を聞いて爆笑していました。人生経験を長く積んで、世界のありようを深く知っている人ほど、小奇麗にまとまったお話はウソっぽくて魅力を感じられないのかもしれませんね。筆者などは、色々な伏線が張られて破綻もなく、さわやかな恋を劇的に描いた気持ちのいいお話だなあ、ライトノベルのお手本のような作品だなあ、と大いに喜んでしまいました。あと、純粋に三葉がキュートでしたね(笑)。三葉が瀧の体に入っているとは知らずに、友達の男子高校生が瀧を「可愛い」と感じてしまったのもうなずけます。

みなさまはどんな感想をお持ちになりましたか?

 

画像:『flickr』 https://www.flickr.com/photos/bethscupham/8023699787/

『ヒメアノ~ル』の主人公はあなただったかもしれない

2016年11月2日にDVDが発売された『ヒメアノ~ル』、劇場で見てきたのはだいぶ前ですけど、思い出したので書いておきます。

V6の森田剛(37)さんの演技がヤバ過ぎると話題だったのですが……本当にヤバかった!映画館から出てきてしばらくへたりこんじゃいました。あまりにも気分が悪くて。

演技がヤバいと言っても、下手だという意味ではありません。つまらない映画だったと言いたいわけでもありません。良い意味で気分が悪くなりました(変な言い方ですがw)。

最初は普通の青年っぽかったんですよ、森田さん。まあ、ちょっと暗い感じはしましたけど、普通にカフェでくつろいでたり、普通に飲み屋で食事してました。

思えばそこから始まってたんですね、彼の狂気は。幼なじみの友達とのやりとりの中で、さ細だけど決定的な違和感が垣間見えます。

そこから急転直下、怒とうのように彼の野生が暴走。人を人と思わず、動物が獲物を狩るかのように、無表情で淡々と殺りくを繰り返します。

むき出された欲望は、本能に近いところまで深く根を下ろしています。修正は困難。闘争の果てに彼は息絶え、いびつな生命のくびきから開放されました。

救われない話のように見えますが、実際の現実だってそんなもんですよね。不合理なことはいっぱいあって、それでもしかたなく生き続けています。

今はまあまあうまくやっている人たちも、たった一歩踏み外すだけですぐに彼と同じようになり得ます。一見堅固な日常の危うさ、もろさを感じさせてくれる強烈な作品でした。

映画:『映画『ヒメアノ~ル』 | 大ヒット上映中!』
http://www.himeanole-movie.com/